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東京地方裁判所 昭和38年(ワ)9007号 判決

原告 杉浦俊政

右訴訟代理人弁護士 坂田豊喜

同 八木志則

被告 三上清治

被告 西崎史郎

被告等訴訟代理人弁護士 江尻平八郎

柳本孝正

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、原告が被告三上清治に対して本件建物を賃料延滞の際における解除の特約を除いて原告主張のとおりの約旨で賃貸したこと、原告が同被告に対して原告主張のとおり賃貸借契約を解除したことは、当事者間に争がない。

二、原告は本件賃貸借契約解除の理由としてまず賃料の延滞を主張するところ、≪証拠省略≫によれば、本件賃貸借の成立に際して作成された契約書には、賃料を一ヵ月でも延滞した場合にはなんらの催告を要せず本契約は当然解除されたものとする旨の記載があることが認められる。しかしながら、同号証によれば、前記契約書の用紙は市販のもので前記条項は印刷されており、ほかに区裁判所を第一審裁判所とする合意の条項が印刷されていることが明らかであつて、被告三上清治本人尋問の結果によれば、本件賃貸借契約の締結に際し当事者間に特に前記条項について話合のなかつたことが認められる。してみれば、前記条項はその内容が極めて苛酷なものである以上、特に当事者間にこの点について合意がない本件においては、以上認定の事実に照し、当事者を拘束する力のない例文であると解するのが相当である。

従つて、原告としては被告三上に対して原則に従いまず賃料の支払を催告すべきところ、これをせずにいきなり契約を解除したのは不当であつて、解除の効力は発生しないものといわなければならない。

三、次に原告は契約解除の理由として無断転貸を主張するところ≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められる。

被告西崎史郎は武蔵工業大学に通学する学生であつて、昭和三八年四月二日から本件建物のうち原告主張の部分(四畳半)に知人の紹介で居住するようになつたが、朝晩の食事代として毎月五千円宛を被告三上に支払つているだけで、食事は同被告の家族と一緒にしており、特に間代などの取りきめはしていない。また、荒木美伸は法政大学の学生で同年四月下旬頃本件建物のうち奥の八畳に義兄の紹介で居住するに至つたが、食事代として毎月五千円宛を被告三上に支払つているだけで間代の取りきめもせず、押入は被告西崎の部屋にあるものを共同で使用しており、また八畳は被告三上の子左京も共同でこれを使つている。

以上認定したところによれば、被告三上は学生二名に対して間貸をしているとはいえるであろうが、営利を目的としているとはいえないし、この程度の間貸では特に家主に迷惑をかけるということもないと考えられるので、契約解除の理由となる転貸には該当しないと解するのが妥当である。従つて、転貸を理由とする原告の契約解除もまた無効ということになる。

四、なお、原告は被告三上に対して昭和三八年八月一日より契約解除の日までの賃料を請求しているが、成立に争のない乙第二、三号証によれば、被告三上は昭和三八年一〇月五日同年八、九月分の賃料を、同年一〇月二八日同年一〇月分の賃料をそれぞれ一ヶ月金二二、〇〇〇円の割合で原告に対して供託していることが認められ、この供託は前記認定の事実に徴すれば有効であるといわなければならない。

五、よつて、原告の本訴請求は失当であるから棄却し、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(判事 古関敏正)

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